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第十五幕 新しい春

last update publish date: 2026-09-28 18:00:20

第十五幕 新しい春

 新しい春は、知らない君を連れてくる——

 四月、始業式の朝。

 昇降口の前には、クラス分けを確認しようとする生徒たちが集まっていた。

 人混みが苦手な僕は、少し離れた場所から掲示板を眺めていた。

「直哉なおや、同じクラスだぞ!」

 相沢守あいざわまもるが、僕より先に桐谷直哉きりたになおやの名前を見つけてくれた。

 少しだけ肩の力を抜くことができた。

 僕も掲示板へ目を走らせた。

 真っ先に見つけたのは、結城沙友里ゆうきさゆりの名前だった。

 僕は胸を撫で下ろした。

 さらに追っていくと——

 神楽麻衣かぐらまい、黒崎修司くろさきしゅうじ、高瀬梢たかせこずえ。

 その下には、春宮里奈はるみやりなと、神前七瀬かんざきななせの名前も並んでいた。

「全員一緒じゃねぇか!」

 守が歓声を上げた。

 後からやっ
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    第十五幕 新しい春 新しい春は、知らない君を連れてくる——   四月、始業式の朝。  昇降口の前には、クラス分けを確認しようとする生徒たちが集まっていた。  人混みが苦手な僕は、少し離れた場所から掲示板を眺めていた。「直哉、同じクラスだぞ!」 相沢守が、僕より先に桐谷直哉の名前を見つけてくれた。  少しだけ肩の力を抜くことができた。 僕も掲示板へ目を走らせた。  真っ先に見つけたのは、結城沙友里の名前だった。  僕は胸を撫で下ろした。 さらに追っていくと—— 神楽麻衣、黒崎修司、高瀬梢。  その下には、春宮里奈と、神前七瀬の名前も並んでいた。「全員一緒じゃねぇか!」 守が歓声を上げた。  後からやってきた沙友里と春宮さんが、掲示板を見て飛び上がった。「やったね、直哉! これ運命?」 「あ、私もみんなと一緒だ! 運命だね!」 「偶然よ」 浮かれまくっている沙友里たちと対照的に、神楽さんが冷静に返事をした。しかし、その表情は柔らかい。「……私の名前もある」 すぐ後ろから声が聞こえて、僕の肩が跳ねた。  振り向くと、神前さんが立っていた。「同じクラスなんだから、あるに決まってるでしょ……」 神前さんにも、神楽さんはちゃんと突っ込んだ。  僕と沙友里は、顔を見合わせて笑い合った。 沙友里たちの輪の中に、僕もいる。そう考えるだけで、足取りが軽くなった。 僕たちは教室に入ると、それぞれの席を確認する。  新しい教室には、床のワックスの香りが残っていた。    席についてカバンをおろすと、周りを見渡してみる。  沙友里の席は離れていて、廊下側の一番後ろだった。「俺の席から、

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    第十四幕 ありがとうを返す日 ありがとうを、どう返せばいいのか—— 「ホワイトデーのお返し、俺たちも手作りで返そうぜ!」 守が、突然思いついたように言い出した。「……守は、お菓子作りしたことあるの?」 「ない!」 「じゃあ、無理だよ……」 僕も考えなかったわけじゃない。だが、お菓子作りどころか、僕は料理にもまったく自信がない。この様子だと、守も同じだと思った。 だけど——「いいね、やろう」 黒崎くんが、普通に賛成した。  肩を落としていた守の顔が、一気に輝き出した。「黒崎、できるのか?」 「うん、俺は結構得意だよ」 「俺は信じてたぞ!」 そう言いながら守は、黒崎くんを抱きしめた。さすがの黒崎くんも、本気の抵抗を見せる。「なら、何とかなるかも……守、やろうよ」 「それでこそ直哉だ! 場所は直哉の家な」 「うん、大丈夫だと思うよ」 手作りは諦めていたけど、黒崎くんのおかげで何とかなるかもしれない。黒崎くん頼みになるのは申し訳ないけど、僕は急にやる気が出てきた。「相沢……とりあえず、離れてくれないかな」 運良くホワイトデーの前日に、三人で集まることができた。  場所は、僕の家。守と黒崎くんを連れていくと、母さんが驚いた顔をしていた。 早速、台所でお菓子作りを始めた。 守はやる気だけは、誰より高かった。 最初の五分で、小麦粉を盛大にぶちまけていた。「料理って、こんな難しかったか?」 「とりあえず守は、黒崎くんの指示に従って」 クッキーを作ることが、こんなに難しいとは思っていなかった。守の影響で、手間が増えている点を考慮しても、大変なのは間違いない。「相沢は、一旦落ち着いて。桐谷は、丁寧でいいね」 僕は黒崎くんに確認しながら、慎重に型を抜いた。(|

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    「覚悟を見ます」——その言葉の重さを、僕はまだ分からなかった。  合格発表の数日後の放課後、レッスン場には多くの見学者の姿があった。「見られることは、仕事の一部です」という城ヶ崎さんの方針で、基本的には見学自由ということになっていた。  手の空いている先生や、アイドル好きの生徒、ただの野次馬まで。そして、部活で来られない黒崎くん以外の僕たちも、隅の方で見学することにした。 時間になると合格者二十五名が、レッスン場の中央に並んだ。そして、上野先生と城ヶ崎さんが、悠々と歩きながら入ってくる。「皆さん、おはようございます」 城ヶ崎さんの声は、相変わらず柔らかい。「今日から私は、皆さんの一番の味方です」 その言葉に、何人かが安堵した表情を見せた。「でも——甘やかすつもりはありません。プロのアイドルになるのですから」 空気がスッと変わった。「私の仕事は、皆さんをステージに連れていくこと。そのために、オーナーに雇われています」 軽い冗談のように言ったので、少しだけみんなも笑った。その笑顔は変わらない。「だけど、スターにしてあげることは——できません」 誰も声を出さなかった。  城ヶ崎さんは、時間をかけて全員を見渡してから口を開いた。「私が見るのは、才能もそうですが……覚悟です。その覚悟を、今日から少しずつ見せてくださいね」 その一言が、レッスン場の温度を完全に変えていた。「では、プロの第一歩として……」 誰かの唾を飲み込む音が、聞こえてきそうだった。「自己紹介をしてもらいましょう!」 城ヶ崎さんは、小悪魔的な笑みを浮かべていた。 指示通りに自己紹介の時間になった。全員が前に出て並び、一人ずつ簡単な紹介をしていく。「だけどよ、ダンス部のメンバーは、みんな知ってんだから意味なくない?」 守が抑えた声で囁いた。「相沢くん、バカでしょ。一般応募の子たちもいるのよ」 「それもそっか……梢っち、天才か!」 「むふふ」 きっと、それだけじゃないような気がする。「僕たちへの、正式なお披露目もあるんじゃないかな?」 「それもあるかもね……まずは校内にファンを作ろう、みたいな」 「なんか城ヶ崎って、やり手っぽいもんな」 自己紹介は進み、今はダンス部の一年生が順番にアピールしている

  • 手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君を、それでも僕は好きでいる——   第十一幕 夢の始まり

     夢を見ているのは、彼女だけじゃなかった—— 冬休みが明けて、始業式の日。僕たちは数日ぶりに顔を合わせた。 教室では休みの間の話題で賑わっていた。誰と誰が初詣に行ったか、お年玉がいくらだったか。普段通りの空気だった。 ただ、沙友里と神楽さんだけは少し違う。二人で向かい合っているが、何も話さない。時々窓の外を見ていた。(今日が、発表だ……) 僕も、同じように落ち着かない日だった。 始業式が終わり、今日はこれだけで終了で帰宅になる。 帰りのホームルームで、担任がプリントを配り終えた後、付け加えるように言った。「ダンス部員は、放課後レッスン場へ集合してください」 教室がざわついた。「本日、オーディション結果の発表がありますが、見学は自由とのことです。興味のある人は、見に行ってもいいですよ」

  • 手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君を、それでも僕は好きでいる——   第十幕 願いの先へ

     願うことと、決意すること——それは、似ているようで違う。 冬休み中の十二月末。校内オーディションの面談当日。僕たちは、喫茶ひかりで沙友里と神楽さんを待っていた。「遅いな……」 守は、メニューをもう三回は見返していた。「面談、長引いているのかな」 黒崎くんが、スマホを確認した。「沙友里ちゃんたち、緊張してたもんねー」 高瀬さんは、ポテトをつまみつつ言った。 それから、さらに一時間ほど経った頃、ようやくドアベルが鳴った。「みんな、お待たせ」 神楽さんが震える声で、駆け込んでくる。その後ろに沙友里もいた。 

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    第五幕 伸ばせなかった手  最初に見たのは、ニュースでも記事でもなかった。  SNSから流れてくる噂だった。写真はぼやけていて、夜の街で、二人並んで歩いて

  • 手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君を、それでも僕は好きでいる——   第四幕 距離のかたち

    第四幕 距離のかたち 春が終わり、夏が来て、気づけば季節がひとつ進んでいた。高校一年の終わりが近づく頃には、沙友里の生活は、完全にアイドルのそれになっていた。 レッスン、収録、イベント。

  • 手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君を、それでも僕は好きでいる——   第三幕 デビュー

    第三幕 デビュー 高校に入って、まだ春の匂いが残っている頃。新しい制服にも、ようやく慣れ始めたばかりの時期。 グループとしてのデビューが決まったと聞かされたのは、いつもの帰り道だった。

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    第二幕 レッスンの日々 それからの日々は、立ち止まる暇もなく流れていった。 沙友里は本格的なレッスンが始まり、徐々に忙しくなっていく。レッスンがある日は、スタジオまでの送迎だけになった。それ以上は、何もできなかったし、しなかった。

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